第2部|問い編 ―― 分析の前に、問いを設計する

第5章 研究デザインの型 ── 疫学のレンズで「何を見るか」を決める

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この章の要点

  • 研究デザインは、大きく「記述的研究」と「分析的研究」に分かれる
  • 横断・縦断(コホート・症例対照)の違いを知ると、データの取り方が見えてくる
  • PICO/PECOの型で問いを構造化すると、AIへの相談も一気に的確になる

「何を見るか」が、データの取り方を決める

仮説が立ったら、次は「それをどう確かめるか」──研究デザインを決めます。デザインを先に決めずにデータを集め始めると、後で「この問いには、このデータでは答えられない」と気づく、という悲劇が起こります。先に型を知っておきましょう。

疫学・社会調査の世界では、研究は目的に応じて大きく2つに分かれます。

  • 記述的研究:状況の把握・事例の観察(「何が、どれくらい起きているか」を記述する)
  • 分析的研究:原因と結果の関係を分析する(「なぜ、それが起きるのか」を探る)

ビジネスの市場調査やユーザー分析にも、そのまま当てはまる視点です。

時間の扱い方で分かれる ── 横断と縦断

分析的研究は、時間をどう扱うかで性格が変わります。

横断研究(Cross-sectional study)  ある一時点で、集団の状態を一度に記録し、関連を探る方法。  例:今この瞬間の「記憶力スコア」と「運動習慣」の関係を見る。  手軽だが、「どちらが原因か」までは言いにくい、という弱点があります。

縦断研究(Longitudinal study)  時間を追って、変化や影響を調べる方法。さらに2つに分かれます。

  • コホート研究:ある集団を、未来に向かって追跡する(例:運動習慣のある群とない群を、3年後まで追って認知機能を比較)
  • 症例対照研究結果から過去を遡って要因を探る(例:認知機能が低下した人と、していない人で、過去の生活習慣を比較)

症例報告・ケーススタディ  特定の個人や少数事例を、詳細に観察・記述する。仮説を「生む」のに有用です。セラピストの症例報告は、まさにこれ。あなたはすでに、立派な記述的研究の担い手なのです。

問いを構造化する魔法の型 ── PICO/PECO

研究デザインを考えるとき、世界中の研究者が使う「問いの型」があります。それがPICO(ピコ)/PECO(ペコ)です。介入や要因の効果を検証する問いを、4つの要素に分解します。

  • P(Population):対象とする人・集団(例:地域在住の高齢者)
  • I(Intervention)/ E(Exposure):介入内容、または要因(例:週3回の運動プログラム/運動習慣の有無)
  • C(Comparison):比較対象(例:運動しない群、従来プログラム)
  • O(Outcome):結果として測るもの(例:記憶テストの点数)

「I(Intervention)」は自分で介入する研究に、「E(Exposure)」は自然に存在する要因を観察する研究に使う、という違いがあります。

たとえば、漠然とした「運動って脳にいいのかな?」という問いを、

P:地域在住の70代 E:週3回以上の運動習慣の有無 C:運動習慣なし群 O:1年後の記憶力スコア

と構造化する。これだけで、何を・誰から・どう測ればいいかが、一気にクリアになります。

AIは、デザインの「相談役」になる

この研究デザインの設計こそ、AIが頼れる場面です。漠然とした興味をAIに伝え、PICO/PECOに整理してもらい、適した研究デザインを提案してもらう。たたき台が出れば、あとはあなたが現場の制約(時間・人数・予算)に合わせて削っていけばいい。

また、Obsidianなどを活用して、ローカルファイルにあらかじめ各種研究デザインの型を情報として残しておけば、思いついた仮説と組み合わせるのが非常にスムーズになります。その情報をAIに読み込ませることで、「『〇〇』という仮説を検証するために、この『横断研究』の研究デザインの型に基づいて研究計画書を作成して」といった指示(プロンプト)も非常にしやすくなります。

ただし注意点を一つ。AIは、もっともらしいデザインを"自信満々に"提案します。 その妥当性や実現可能性、そして倫理的な問題がないかは、必ずあなた自身と、できれば指導者・共同研究者の目で確かめてください。


試してみるプロンプト

あなたは疫学・研究デザインに詳しい研究者です。 わたしは次のことを調べたいと考えています。

【調べたいこと】 (例:当施設の運動プログラムが、利用者の生活満足度を高めているか)

  1. この問いを PICO(または PECO)の形に構造化してください。
  2. 考えられる研究デザイン(記述的/横断/コホート/症例対照など)を、メリット・デメリットとともに提案してください。
  3. 現場(限られた人数・予算)で現実的に実施できる案を、1つに絞って推薦してください。
  4. その案で、倫理面・実施面で特に注意すべき点を挙げてください。

第5章のまとめ

  • 研究は「記述的」と「分析的」に大別され、時間の扱いで横断・縦断(コホート・症例対照)に分かれる
  • セラピストの症例報告は、立派な記述的研究の担い手
  • PICO/PECOで問いを構造化すると、AIへの相談も設計も一気に的確になる

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