第4部|分析編 ―― AIと読み解く
第11章 関係を見る ── 単変量から多変量解析まで、AIと進める
この章の要点
- 分析は「1つの変数を見る → 2つの関係を見る → 多くの要因を同時に見る」と進む
- 変数の型の「組み合わせ」で、使う手法が決まる
- AIは手法の提案・実行・解釈の補助をするが、妥当性の確認は専門家と
分析は、階段を上るように進む
データがきれいになったら、いよいよ分析です。といっても、難しく考える必要はありません。分析は、3つの階段を順に上っていくだけです。
1段目:単変量解析(1つの変数を見る) まず、一つひとつの変数の「素性」を知ります。 - 連続変数 → 平均・中央値・標準偏差(中心とばらつき)、ヒストグラム(分布の形) - 名義変数 → 割合、棒グラフ ここで「データの全体像」を掴みます。いきなり関係を見るのではなく、まず一つずつ眺めるのが鉄則です。
2段目:二変量解析(2つの変数の関係を見る) 次に、「AとBに関係はあるか?」を見ます。ここで、第6章で学んだ変数の型の組み合わせが効いてきます。
| 組み合わせ | 主な分析方法 | 例 |
|---|---|---|
| 連続 × 連続 | 散布図、相関係数(ピアソン等) | 運動時間と記憶力スコア |
| 名義 × 連続 | t検定(2群)、分散分析・ANOVA(3群以上) | 性別による満足度の差 |
| 名義 × 名義 | クロス集計、カイ二乗検定 | 地域による利用有無の差 |
| 順序が絡む | 順位相関、箱ひげ図での比較 | 満足度段階と継続率 |
3段目:多変量解析(多くの要因を同時に見る) 現実は複雑で、結果には多くの要因が同時に影響します。これを解きほぐすのが多変量解析です。
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多変量解析の「道具箱」
代表的な手法を、目的とともに押さえておきましょう。名前を覚える必要はありません。「こういう道具がある」と知り、必要なときにAIと引き出せれば十分です。
- 重回帰分析:複数の要因から、1つの結果(連続変数)を予測する(例:記憶力に影響する複数要因を同時に評価)
- ロジスティック回帰:結果が「はい/いいえ」のとき(例:継続した/しないを分けるリスク要因)
- クラスター分析:似た特徴を持つ群を自動で分類(例:利用者をタイプ別に分け、施策を設計)
- 因子分析:多数の項目の背後にある「共通の要素」を抽出(例:認知機能の背後の構造)
- マルチレベル解析:個人と集団(例:施設ごと)の構造を同時に扱う
- ROC解析:評価指標の感度・特異度のバランスを見て、カットオフ値の妥当性を検討
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「仮説・変数・手法」の整合性
分析でいちばん大事なのは、仮説・変数・手法が一直線に揃っていることです。一例を挙げます。
仮説:「週3回以上の運動習慣は、記憶力の低下を防ぐ」 必要な変数:記憶力(連続変数)、運動習慣の有無(名義変数) 手法:t検定、またはロジスティック回帰(年齢・性別などを調整)
この「仮説 → 変数 → 手法」の筋が通っているか。ここがズレていると、どんなに高度な計算をしても、答えは的を外します。
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AIは「分析の伴走者」、ただし保証人ではない
AIは、この分析プロセス全体に伴走します。「このデータと仮説に、適した手法は?」と相談し、「コードを書いて実行して」と任せ、「この結果を初心者向けに解釈して」と頼む。各論②で学んだ"作業を任せる"発想が、分析でも全面的に活きます。
しかし──ここで、本コンテンツで最も強く念を押したいことを書きます。
AIは、統計について"自信満々に間違える"ことがあります。 不適切な手法を選んだり、p値を誤解させたり、成立しない前提のうえで計算したりします。
『概論』第11章で書いたとおり、簡単な集計や「傾向を見る」段階なら、AIは強力な味方です。しかし、研究・学会発表・論文・重要な事業判断のレベルでは、必ず統計家・指導者・原著で検証してください。 AIは分析の「伴走者」ですが、その正しさの「保証人」ではありません。この一線だけは、絶対に踏み外さないでください。
試してみるプロンプト
あなたは生物統計に詳しいデータサイエンティストです。ただし、不確かなことは正直に「専門家の確認が必要」と述べてください。 わたしの仮説と、手元の変数は次のとおりです。
【仮説】(例:運動習慣のある人は、生活満足度が高い) 【変数】(例:運動習慣=名義、生活満足度=連続、年齢・性別も取得済み)
- この仮説の検証に適した分析手法の候補を、理由とともに挙げてください。
- 各手法が成立するための「前提条件」と、それを確認する方法を教えてください。
- 交絡因子として調整すべき変数があれば指摘してください。
- この分析を学会・論文レベルで行う場合に、専門家へ確認すべきポイントをリストにしてください。
第11章のまとめ
- 分析は単変量 → 二変量 → 多変量と、階段を上るように進む
- 変数の型の「組み合わせ」で使う手法が決まる。仮説・変数・手法を揃える
- AIは伴走者だが保証人ではない。責任ある場面は必ず専門家で検証する